今日の食事は白米になめこの味噌汁、鮭の塩焼きに出汁巻き卵、そしてさといもの煮付けだった。
これらは全て萱草が用意をしてくれたもので、辛すぎず甘すぎず品の良い味付けのものばかりだ。
いつもならば周りなど目に入らない程の勢いでその美味しい食事を食べることに集中するのだったが、今回朽葉の箸は重い。
いつもの半分程しか減っていない食事がそれを物語っていた。
居心地が悪く――どうにも落ち着かないのだ。
別に周りがうるさいわけではない。
寧ろその逆で朽葉が通された部屋はとても静かな部屋だった。
人の話声どころか人の動く音も動物の鳴き声すら聞こえず、唯一あるのが食べ物を咀嚼する音と食器がぶつかり合うカチャカチャという音けだ。
その音を立てている張本人である朽葉はごくり、と咀嚼していたさといもを飲み込み、自分の斜め右に立っている男を見ながら小さく溜め息を吐いく。
そしてその男に本日何度目かになる質問を投げかけたのだった。

「莞草、私に何か言いたいことでもあるのか?」

じっと朽葉を見ていた萱草の、ざっくばらんに切られた些か長すぎる前髪から覗く目が一度大きく瞬きをした。
箸をくわえたまま上目遣いに相手を見た朽葉は表情の変化からその感情の動きを探ろうと試みるが、そこからは感情の変化を読みとるどころか表情の変化すら読みとれない。

「別に何も無いが」
「…そう、か」

本日何度目かの萱草の答えもやはり同じもので、朽葉はがっくりと肩を落とした。
その酷くあっさりした物言いにやはり腑に落ちないものを感じながらも、朽葉は再び食事を再開する。
が、やはり莞草の視線はこちらに向けられたままで、「やっぱり何か言いたいことがあるのではないか!?」と朽葉は叫んでしまいたくなる。
けれど、なんど尋ねてみても返答は先程の通り。
もういっそ、気にしなければいいんだ。
そう自身に言い聞かせるてみるものの一向に効果は無い。
そして萱草の視線は相変わらず朽葉に注がれている。

(ううううう、)

上手く白米が咀嚼出来ずに呑み込むのにも苦労して、朽葉は一瞬自分が今まで萱草の前でどうやって食事をしていたのか本気で分からなくなった。
もはやいつもはとても美味しい筈の食事は砂でも噛んでいるように全く味がしない。
なのに、その間も頬の辺りに萱草の視線を感じる。
自分の頬が、じわじわと熱を持っていくのが分かる。

「ああもうなんなのだ!?いったい!」

とうとう叫んで箸と茶碗を膝の上へと下ろしてしまった朽葉に莞草が怪訝そうな顔を向けた。

「どうした、朽葉」

私だって分からない。
どうしてお前が私を見ているだけで酷く落ち着かないのか。
どうして胸が苦しくて食事が食べられないのか。
分からないので、朽葉は事実だけを正直に伝える。



「何故かは知らんが白米が喉を通らないんだ」



不貞腐れた顔でそう答えた朽葉に、普段表情の変化に乏しい萱草が血相を変えて狼狽えたのは言うまでもない。
















萱草も紺も朽葉が美味しそうにご飯を食べるのを見るのが心底好き、だといいという話。
紺でもやりたいな、このネタは。