「なあ鴇、これどーだ?」

障子に煙草の灰を水で溶いたもので文字を書いていた鴇は筆を下ろして部屋の端に目を向けた。
煙草の代わりに筆をくわえた篠ノ女が手に取ってこちらに向けているのは、灯りの下で見ても一瞬ギョッとしてしまう程恐ろしい形相をした面だ。

「うん、いいんじゃないかな」
「ここの色。黄色と赤、どっちがいい」
「そうだなあ…黄色?」
「りょーかい」
「篠ノ女、巧いよね」

だろ?、と篠ノ女はお手製の面を片手に笑ってみせる。
左手一本で料理はこなすは喧嘩はするは、篠ノ女紺というこの男は見掛けに寄らずとても器用だ、というのが鴇の見解だった。
今も片手一つで今晩使う面を作ってしまっているし、その出来映えは先程賞賛した通りだ。
鴇は再び面作りに没頭している篠ノ女の灯りに照らされた横顔を眺める。
器用で博識、――そして恐らく頭もキレる。

「篠ノ女」

声を掛ければ集中しているらしい篠ノ女から、顔を上げずに「何だ?」と返される。

「今日平八さんがさ、またか、って言ってたじゃない」
「んー?」
「こういうことよくやるわけ?」
「あー?んなしょっちゅうじゃねぇよ。時々だ、時々」
「……平八さん可哀想に」
「何言ってンだ、大概アイツも楽しそーだぜ?」
「じゃあさ、前に朽葉が傷つけられた時はどんな風に祟ったの?」

筆の動きが止まって、篠ノ女がゆっくりと顔を上げる。
少しだけ不意を突かれたように表情を消した後、膝の上に肘を突きその手の甲に顎を乗せにやりと笑いながら鴇を見る。

「―――なんの話だ?」

ああ、やっぱり。
と、それで鴇は確信したのだ。
今回、例え鴇が言い出さなかったとしてもこの目の前にいる男は何かしらの方法であの侍に対して朽葉の内側を土足で踏みにじった対価を払わせたのだろうと。
それでもやるのかと問われたあの時、自分はかこの男に試されていたのだと。
はー、とわざとらしい程の溜め息を吐いてから、鴇は頬を膨らませる。

「ちぇっ、俺にばっかり頭脳労働させてさー」
「そりゃ悪かったな、ごくろーさん」

ははッと声を上げて笑った篠ノ女は、それ以上口を割る気は無いらしい。
朽葉は篠ノ女が仕返しをしていることを知っているのか。
そう聞こうとして止めたのは、わざわざ確認する必要など無かったからだ。
篠ノ女ならば朽葉に全く気付かれること無くそれを行い続けることなんてきっと造作もない。

「けどさ、ちょっとぐらい教えてくれたっていいじゃないか」
「んなモン企業秘密に決まってんだろ?」


















アニメ二話の穴埋め、と言う名の妄想。
今まで犬神のことで朽葉が傷けられる度に裏では色々やってる紺。
だけど朽葉自身のフォローは沙門のがいい、とか思ってる紺。
紺朽好き過ぎる(どうしよう)