12話のあれ。
「なーアーニャ」
桃色のスカートの裾をふわりと翻えしてアーニャは振り返った。
何、というように長い足を投げ出して座り込んでいるジノを見下ろす。
女の子達に追いかけられあれだけ走り回っていたにも関わらず息一つ乱していないジノは、へらりと力の抜けた笑みを浮かべて頭に乗せた青いハートを象った帽子に手をやった。
「そろそろ追いかけられるのも飽きてきたし、俺達も交換する?」
ジノの言うとおり多少追いかけ回されることに飽きてきたのは事実だった。
だが――。
「駄目」
短くそう答えれば、ジノの丸く見開かれた目が一度瞬きをする。
背を向けながらその理由を端的に告げる。
「ルルーシュ君に用があるから」
そう、この帽子を交換することは「キューピットの日」と銘打ったこのイベントへの参加
資格を失うことを意味する。
会長の「部費二倍宣言」との相乗効果でかなりの人数が彼を追いかけているにも関わらず、彼と帽子を交換した、という情報は聞こえてこない。
どうやら彼はとても上手く逃げ回っているらしい。
「運動音痴って聞いてたのに、全然そうは見えないよなあ」
ジノも同じことを考えていたようでそんなことを呟いた。
「それで?アーニャはどうするんだ?」
「とっておき」
「とっておき?」
不思議そうにジノが繰り返す。
*********
「あーあ、」
アーニャの居なくなった校舎裏で座り込んだままジノは空を仰ぐ。
断るだろうことは予想が付いていた。
だから軽くふざけて言ったのに。
あの理由は予想外だ。
ふてくされた顔でジノは呟く。
「よろしく、なんて言うんじゃなかった」