「もしかしてそれってルルーシュ・ランペルージュか?」
柔らかな暖かい日差しに包まれた美しい庭。
見るからに仕立ての良い衣服に身を包んだまだまだ幼い黒髪の少年。
赤いケータイの画面に映し出されているその画像をアーニャが眺めていたのは果たしていつからなのかジノには分からない。
この部屋を訪れた時にはもうアーニャはソファーに一人座っており手に持ったケータイの画面をただ眺めていたのだから。
アーニャの座ったソファーの後ろに立って体を屈めてそう問い掛けたジノを彼女は首だけを動かして振り返る。
そして小さく首を振った。
「…分からない」
訪れたことなど一度も無いはずの場所なのだ、と彼女は続けた。
彼とは話をしたことは疎か会ったことも無い筈なのだ、と。
なのに己のケータイには彼の写真があり、そして、自分は彼を、少しだけ懐かしいと感じる、と。
確かな歪みと理由の無い違和感を訴え続ける彼女の記憶について、ジノはもう随分から知っていた。
「手掛かりなのか?」
「そう」
「今回の任務、対象と接触しなければならない、という命令は受けてない」
「知ってる」
アーニャの視線が再びケータイの画像へと落とされ、ジノは自分が持ってきたアッシュフォード学園への編入手続きのための書類を持つ手に力を込めた。
そして、分かってるさ、と自分に言い聞かせるように心の中で呟く。
ケータイに記録された画像はアーニャの大切な記憶だった。
彼女自身は覚えていない、彼女の過去。
例えばジノがアーニャの立場だったとしても、その違和感の理由と真実を探るためにやはり同じように彼に接触しようとしただろう。
「俺も興味あるなあ、ルルーシュ・ランペルージュ」
「…ジノも?」
「接触するなら周りから固めてくか」
「周りから…」
「学園祭の時に会った生徒会長か――」
「――生徒会役員。シャーリー・フェネット、リヴァル・カルデモンド」
「決まりだな」
パチリと指を鳴らして、ジノは笑いながら手に持っていた書類をアーニャへと渡した。
これでいい。
アーニャがそうしたいと望むそれを止める権利などジノには無いしましてやアーニャが彼の写真を見ることに酷く不愉快な感情を抱いているなんてことはジノ自身の中で処理されなければならない問題だ。
※※※※※※※※
パシャリ、と赤いケータイが小さく音を立てた。
彼へと向けられた小さなカメラのレンズ。
普段と変わらないアーニャの行動にジノは小さく笑う。
そして目をこれ以上無い程大きく見開き動揺を露わにしている彼へと向かって親しげに歩み寄った。
彼はアーニャに向けていた酷く困惑した視線を今度はジノへと向ける。
ジノは両手を広げて彼を抱きしめようとしたが―――途中で思い直してその両肩を掴む。
「……な…っ…」
「―――よろしく、先輩」
は、と酷く間の抜けた返事を返したルルーシュ・ランペルージュにジノは満面の笑みを向ける。
確かにに自分にそんな権利は無いけれど、『宣戦布告』をするぐらいは許される筈だ。
――そうだろう?
ジノがルルーシュに言った「よろしく、先輩」はジノアニャ的にとてもおいしい、と思います。
後から言ったことを後悔するも良し。
さりげ無い宣戦布告でも良し。
・・・あの台詞がジノルル萌ではなくここまでジノアニャ萌に直結する自分のフィルターはなんというか、最強すぎる。