最近、深く眠れたためしが無かった。意識が完全に遮断されることなど殆ど無くて、ふわふわと眠っているのか起きているのか分からない状態が続く。そしてそんな中必ずといっていいほど夢を見るのだ。夢の内容は様々で、細部まで鮮明な時もあればぼんやりとして曖昧な時もある。楽しかった時のものもあれば、哀しかった時のものもある。
唯一共通しているのは、それが彼女の夢だということだ。
今日見た夢は、あの日の夢だった。スザクは半狂乱になって、意識を失い血塗れになった彼女を抱えている。ぼた、ぼた、とスザクの手を伝って彼女の血が落ち、じわじわとそ体温が失われていくに感覚に悲鳴を上げてしまいそうな程の恐怖を感じながらただひたすら走っている。扉が開くのと殆ど同時に彼女を抱えて飛び込んできた自分を見てロイドとセシルの二人が目を丸くする。どちらかが何かを言ったけれど、スザクの耳にそれは入っては来ない。震えの止まらない手は上手く力の加減が出来ず、指先が彼女の体に食い込んでしまう。
恐ろしかった。彼女を失うことが恐ろしかった。抱えた両手からじわじわとこぼれ落ちていく感覚が心底恐ろしかった。
(助けて、)(誰か助けて、)(誰か、)(誰か、)(誰か、)(誰か、)
喉がひきつる。
スザクは叫び、――そして夢から醒める。
遠くで学生達の笑い声がし予鈴が鳴るのが聞こえる。大きく見開いた目が光に眩み、一瞬ここが何所なのか分からなくなる。
肌がじっとりと汗ばんでいた。心臓がどくどくと大きな音を立てているのを聞きながら、スザクは視線を落とし木漏れ日で光と陰の斑に染まった自分の両手を眺めた。そこには何もない。桃色のふわふわとした髪も、白い柔らかな肌も、華奢な体も何も。けれど、両手には夢の中の彼女の感触が確かに残っていて、そのあまりにも生々しい感触にスザクはじっとその両手を眺めることしか出来ない。汗ばんだその手の隙間をを爽やかな風が通り過ぎていく。
どれくらいそうしていたのだろうか。ようやくスザクは両手を力無く膝の上に下ろした。そして再び目を閉じて木の幹にもたれ掛かる。
ユフィ、とスザクはその名前を呼んだ。